マグリットの絵
 

突然ですが、私はマグリットは好きです。

まずパッと見たとき、他の画家のように暗い雰囲気がなくて目に気持いいです。
描かれているのが不可思議なのも面白いし、
それに絵に隠された意味をパズルみたいに解いていく楽しみもあります。

あれ、単に奇抜さをねらってるだけじゃないんだな、と思いました。

もちろん何年たっても意味が分からない絵もたくさんあるので
それを死ぬまでにいくつつかめるだろう…という楽しみはずっと続くでしょう。
 

で何枚かの絵について、めぐらせてみた想像を書いてみます。
ほんとの意味と違ってたらごめんなさいね。
 

これはパイプではない

画面に大きくパイプが描いてあって、その下に
「Ceci n'est pas une pipe.」という字が描いてある有名な絵です。
「Ceci」は「ce=これは」をもっと強めた言い方。

言うまでもなく「これはパイプではなくパイプの絵だ」ということ。

(せっかくパイプじゃなきゃなんなのか考えたのに
「そんなのいかさまじゃねえか!」と思うかも知れませんが、
「pipe」には「いかさま」という意味もあります。くすっ。)

哲学で実存がどうのこうのっていう話…っていうか、
言語学で言うラングとパロル、もしくは物そのものとラングの関係と同じで、
マグリットはほんとに言葉的な画家なんだなあ、と思う。

彼の作品は言葉で全部説明できるんです。
多分ね。
なのに作風がすっきりしているところに感嘆します。

この絵はパイプだけど、もう1枚同じので「りんご」のバージョンがあります。
マグリットは「パイプ」なり「りんご」なりに
やはり一つのイメージを当てはめていたと思うのだけど、それが何かはまだわからない。
「りんご」は欲とか可憐さとか…かなあ。
(「pomme」=「お人好し」という意味も。)
 

不安の原理

女の人が壁に映った自分の影が大きな鳥であるのにびっくりしている。

自分が「飛べるかもしれない」ということに気付いた瞬間から不安がはじまる。
なんて思った。

これの原題が知りたい。
 

旅行者

夜空にぽっかりとボールが浮かんでいて、
そのボールは椅子やラッパ、ライオンなどを集めて
ぎゅっと固めたもので出来ている。

これはワカル!
「ライオン」は野心などの象徴で、ラッパは「詩心」などの象徴で
「椅子」は安楽などの象徴で…
つまり「旅行者」=人生を旅行している人は、
こういうものをコンパクトに身一つまとめて空を飛んでいくのだ。
っていう感じ。
これ大好き。
こういう風にありたいものです。
 

意外な返事

画面いっぱいに閉まったドアが描いてあるが、
そのドアは大きくくられていて向うが丸見え。

これは多分おそるおそるノックしようとしたら、
こういう返事が来てあら意外、とかそういうことかなと思います。
 

呪い

たんなる空の絵。
青地に白い雲が臆面もなく散っている、ただそれだけの絵。

でもタイトルが「呪い」。
「呪いなんて、そんな、トイレのペンキ絵みたいなもんさ」と言われてるみたいで
ホッとする。
 

Le grand style

星を散らした宇宙のなかに「地球」が浮かんでいる。
でもその地球からは大きな茎が生えていて葉っぱもついてる。

というような絵。
すごく面白い。
パッと見てすぐ「わ、素敵」と楽しくなってしまう魅力的な絵だ。

この絵はポストカードしか持ってないので邦訳がわかりませんが、
「style」は「文体」とか「様式」とかいう意味。

「〜de grand style」は「大がかりな〜」という熟語なので
これを「Le」で特定化すると、「おおがかりそのもの」というか…
宇宙の中で地球というのは神が作った大がかりなしかけ、
という見方をしているのかも(?)
そういうおもちゃみたいな見方も面白い。

「grand」は「大きな、大切な、偉大な」という意味だけど名詞なら「国家」にもなる。

宇宙に浮かんだ唯一の大国家・地球?
 

人間の条件

「人間の条件」はシリーズで何枚か同じモチーフの絵が描かれていますが、
ここでは「峰の呼び声」をあげます。

画面手前にキャンパス、
そこに描いてあるのは山の稜線の絵で、
その稜線の一部は盛り上がってなんと鷲の頭になっていて、今にも飛び立ちそう。
そしてキャンパスが置いてある背面はやはり山の稜線で、
キャンパス中の稜線と背面の稜線はぴったり続いているように描かれている。
画面右端にたたんだカーテン。

私は「人間の条件」というのは「=想像力」なんだろうと思う。
固い重い岩がもちあがって、鳥になって空を飛ぶことを想像できること。
(もちろんこの重い岩だとか鳥だとかは色々なものの象徴です。)

しかもそれは背景の山=現実、と地続きであって
決して完全に浮き足立っているわけではない。
その証拠にカーテンを引いて、なにも見ないでこういうことを想像することだってできるのに、
このキャンパスを描いた人はそうはしていないのだ。

じんとする。

また原題の「La condition humaine」は熟語で「人間の限界」という意味もあるので、
決してこの絵が甘い幻想だというわけではない。
 
 

******
 

それにしても原題に当たるともっと色々な意味が考えられることがあったりして、
日本語訳が1つしか描いてないのはけっこう困る。

他の画家よりも多分、題名で楽しめる部分が大きいし
すごく言語的な人だと思うから。

上に書いた二重の意味以外でも、
「無情の感謝」の「感謝(reconnnaissance)」には「偵察」という意味もあることとか、
知らないままだったらなんと惜しいことか!
あの空を飛んでる2人が「偵察」してるんだったら話は随分変わるもの。

完全に訳せないのはしかたないから、せめて原題は外さないで欲しい、画集などで。
出版社の方、頼みます。



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